(飼育相談へのご回答)爬虫類「フトアゴヒゲトカゲ」が餌を食べなくなった……。

知人の紹介で、「幼体から飼育していたフトアゴヒゲトカゲが、急に餌を食べなくなったのですが……」というご相談を頂きました。

それに対して、「ひとまずシェルターを入れて、落ち着いた環境をつくったら餌食いは改善すると思います」とお返ししたのですが、1週間ではさほど改善しなかったとのことでした。

 

そのため、具体的にフトアゴヒゲトカゲの為に「できること&した方が良いこと」をお伝えしようと思ったのですが、私の性格上、細かいところも押さえたくなるので……どうしても長文になります(笑)

また、WEBを見ていると、わりと爬虫類(トカゲ・ヤモリ系)の拒食にお悩みの方も多いようです。せっかくですし、今後の徳留アクア工房のHPを見られる方の参考にもなるかと思いますので、(相談者様の情報はなるべく出さないようにしつつ)今回は「トカゲの拒食対策」について紹介したいと思います。

なお、爬虫類や両生類は代謝が低い生き物なので「1ヶ月程度何も食べていない」状態でも、(水分補給さえできていれば)ぜんぜん大丈夫だったりします。(サイズにもよりますが経験的に、2ヶ月半~3ヶ月を超えてくると、ヤバいなと感じますが)

ちなみに、「痩せてガリガリにあばら骨が浮いている」、「水を一切飲まない(なお、温浴や野菜や生餌で、水分補給が出来ているなら比較的大丈夫)」という感じでなければ、環境や餌を改善することで拒食に対応することが出来ることが多いです。

今回の記事では、そこら辺も踏まえた拒食対策について紹介していきます。

 

拒食の原因を探します(Q.最近、飼育環境を変えませんでしたか?)

今まで順調に育っていて、急に拒食するようになったら――「最近、飼育環境を変えませんでしたか?」――と聞くようにしています。

大掃除をしたり、レイアウト変更をしたり、飼育ケージを別の部屋に移動させたり、同居するペットを追加したり、家族が喫煙を始めたり、寒かったり暑かったりする場所に移動したり……などです。飼育環境が大きく変わることで、生体がストレスを感じて餌を食べなくなることが結構ありますので。

 

拒食の原因探し:最初に「基本の飼育方法」をおさらいしてみて下さい

余談ですが、拒食の原因探しは「ストレス探し=基本的な飼育環境から外れてしまった場所が無いかを探すこと」が近道です。今まで生き物を順調に飼育できていた方も、改めて飼育している生き物の飼い方をおさらいしてみて下さい。

気温、湿度、振動、人影、同居する動物、喫煙、料理の煙、化学物質、飼育容器の変更、レイアウトの変更、餌の与え方――などなど。

 

また、成長に伴う食性の変化(例:①フトアゴヒゲトカゲは成長に伴って「昆虫食⇒野菜食」へと食べるモノが変わります。②イモリは幼生~上陸後に、「ブラインシュリンプ⇒冷凍赤虫⇒ワラジムシなどの生餌」と食べる餌が変化していきます)についても、頭の中に入れて変化に合わせた給餌をしてあげて下さい。

今回の相談者様の場合、飼育ケージを移動させて「道路の音が入りやすい場所」&「人通りも比較的ある」&「犬猫がいる場所に移動させた」とのこと。また、「幼体から飼育していたが、大きくなってきた」とのこと。おそらく、そこら辺に拒食の要因がありそうです。

一番簡単なのは、飼育環境を元に戻すことですが、様々な要因(引っ越しや家庭の事情など)でそれが難しいことも間々あります。今回は、「環境変化(音、振動、犬猫の臭い)」という原因を踏まえて、拒食対策をして行きたいと思います。

 

今回の「拒食対策」に関するアドバイス(①人や犬猫の存在に慣らす方法)

(その1)フトアゴヒゲトカゲが隠れられるシェルター(隠れ場所)を作って、落ち着ける場所を作ってみて下さい。

⇒トカゲやヤモリにとって、自分よりも大きな生き物(人間、犬、猫など)はすべて「警戒しないといけない存在」であり、犬猫は「自然界では天敵ともいえる存在」です。特に、犬猫の匂いはトカゲ類には警戒心を強く与えてしまうので、どうしても同居させないといけない時には「隠れ家を入れて臭いに慣れさせる」ことをしていきます。

また、シェルターは1個だけでなく「2~3個/1匹あたり」入れるのも効果的です。なるべく、全身をすっぽり入れて隠れられるモノを用意してあげると安心してくれます。市販のプラスチックや素焼きのシェルターだけでなく、「大き目のコルク樹皮」「木箱」「100均のプラスチックケースや容器」などもシェルターとして流用できます。

 

※余談ですが、ペットショップをしている友人から「『爬虫類や小動物(ウサギや鳥、ねずみなど)』と『犬猫』を同じ室内に置いておくと、爬虫類と小動物が状態を崩すから自分は犬猫は取り扱わない」ということを聞いたことがあります。特に、犬に吠えられるとウサギ類はかなりストレスのようです。

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(その2)水槽の外側を「光を通さないもの(段ボールやプラダン)」で90%程度囲って、飼育ケージ内に人影や犬猫の影が入りにくくしてみて下さい。

⇒人影や犬猫の存在にトカゲが過度に警戒するのを和らげるため、光を通さない段ボールなどで目隠しをしてあげます。足音や鳴き声という音は遮断できませんが、見た目を遮ることで警戒心を下げることができます。トカゲが入ることができるシェルターだけでは警戒心が下がらない時に、有効です。

餌食いが改善したら、「(遮光できる)段ボール90%⇒(人影がやんわり入る)新聞紙90%⇒(半分だけ覆うようにして)新聞紙50%⇒全部外す)」と慣らしてあげてください。

 

※「ワイルドの熱帯魚、池で育った錦鯉、採集してきた魚」などを水槽に慣らすときも、新聞紙などで水槽を90%程度おおうと「暴れて傷つくのを防止しつつ、水槽に慣れさせる」ことができます。我が家も屋外の錦鯉が警戒心がかなり高く、人影に暴れてどうしようもなかった時に覆いをして、ばっちり慣れさせることができました。今では、餌をくれる人と認識して、水槽の前を歩くと甘えてきます(笑)

 

今回の「拒食対策」に関するアドバイス(②色々な餌を与えてみて下さい)

シェルターと段ボールなどでの覆いをして、2~3日経過したら「色々な餌を与えて、何か食べるモノが無いかを確認」してみて下さい。

例えば、フトアゴヒゲトカゲは成長に伴い「昆虫食⇒野菜中心」に食べるものが変わります。コオロギはお腹が空いている時しか食べなくても、ピンセットや手で動かした野菜(小松菜、カットしたニンジンやカボチャなど)なら喜んで食べてくれるかもしれません。

あるいは、ジャイアントミルワームやデュビア(いわゆる『芋虫』や『大きな黒い悪魔』なので、大丈夫ならですが……)なら、もりもり食べるかもしれないです。

個体の状態を落ち着かせてから、何か口にさせることが出来ないかの「切り口」を見つけてみて下さい。(今回の相談者様の場合、コオロギを少し食べたとのことですので、それが切り口になるかと思います)

 

拒食対策で大切なこと(食べる餌があるのなら、栄養価の高い餌を与えよう♪)

拒食対策ですが、もし「活餌ならときどき食べる」とか「手やピンセットで揺らした野菜や人工飼料ならしぶしぶ食べる」とか「水だけなら飲む」という場合があるならラッキーです。たくさん餌を食べなかったとしても、それを補える栄養価の高い餌を与えましょう。

今回の相談者様の場合、数日前に「コオロギを5匹食べた」とのこと。お店で大量飼育されている「そこそこのコオロギ」を栄養強化して「プリプリの美味しいコオロギ」にして、与えてもらうと良いかと思います。

 

①活餌に人工飼料を食べさせて、生体に与える(ガッドローディングで栄養強化)

コオロギなどの生餌に「人工飼料や野菜をお腹いっぱい食べさせて」から飼育している生体(イモリ・ヤモリ・トカゲ)に与えることで、間接的に生体にも栄養価の高い餌を与えることができます。

この方法を「ガッドローディング」と呼ぶのですが、普段から餌用の昆虫などを与える時にも有効ですので、使ってみて下さい。ガッドローディングの方法は「蓋が閉まるプラケースなどの容器に、コオロギなどと一緒に人工飼料や野菜をいれて2晩放置する」だけです。2晩置くことで、コオロギが餌をしっかり食べてくれます。

なお、プラケースと蓋の間には、「新聞紙を挟む」とコオロギや人工飼料の臭い対策ができて便利です。コオロギの匂いがどうしてもダメという方もいますので、臭気対策もされてみて下さい。

 

※コオロギ、デュビア、ローチ、ミルワームなどは人工飼料や野菜を餌にできるのでガッドローディングしやすい活餌です。

※食べ残した活餌は、出来る限り飼育ケージから取り出して下さい。「活餌が体の上を這いまわるだけで拒食になる(その餌を嫌がって食べない)」生き物も少なくありません。あるいは、活餌のコオロギやミルワームに噛まれたりすると、拒食が悪化する場合もあります。

 

②活餌にビタミン剤やカルシウムをまぶして、生体に与える(ダスティングで栄養強化)

生体用のビタミン剤やカルシウム剤がペットショップでは、700円前後で販売されています。それを購入して、コオロギなどにまぶして与えることで、不足しがちな栄養素を補うことができます。

なお、毎日の餌でダスティングをするとカルシウムなどをとりすぎになりますので、「2~3週間に1回程度(気温や湿度、繁殖の有無で変動)」でダスティングは取り入れたら良いと思います。

↑うちのクーリートビヤモリにも、ビタミンDを補給するために月1でダスティングしています。

 

③特定の餌をバクバク食べるようになったら――人工飼料に切り替えます!

活餌などを安定して食べるようになってくれたら、種類にもよりますが人工飼料に切り替えていきます。ヤモリ類はなかなか難しいところがありますが、今回のフトアゴヒゲトカゲは人工飼料を食べてくれる子が多いので、ぜひ「活餌&野菜⇒人工飼料」へと切り替えていきましょう。

切り替える方法は、「何を食べるか?」によって違いますが、次のように徐々に切り替えていきます。

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①活餌⇒活餌をピンセット給餌⇒人工飼料をピンセット給餌⇒エサ皿で人工飼料を与える

②野菜⇒野菜にふやかした人工飼料をくっつけて与える⇒徐々に、野菜にくっつける人工飼料の量を多くして与える⇒野菜より人工飼料が多い状態で与える⇒エサ皿で人工飼料に切り替える

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(余談)人工飼料だけを与えて良いの? 良いんです!

最近のペット用の人工飼料は、単食(それだけを長期間食べさせること)させても健康に飼育や繁殖が出来るように作られています。↓は我が家の「イモリの餌の生餌」に累代繁殖&ガッドローディング用として与えている爬虫類用の人工飼料の一つ。

たまたま、フトアゴヒゲトカゲの餌だったので今回の記事にちょうど良いと写真を撮りました(笑)

爬虫類や両生類の人工餌は、「給水させてピンセットで与える餌」「ジェル状の餌」「粒状の餌」などいろいろとあります。↓はベルツノガエル用の餌ですが、うちのトビヤモリはピンセット給餌で時々食べています。

 

爬虫類の飲み水について(①止水は認識しない子もいます)

ちなみに、餌と同じくらい「水分補給」は重要です。爬虫類にも「飲み水」として、新鮮な水を与えないと、脱水症状や便秘などで体調を壊してしまう(最悪、死んでしまう)場合があります。

しかし、エサ皿や小型の容器に水を入れても、爬虫類が認識してくれないことも多々あります。止水(溜まっただけの動きのない水)を、水として認識できていないことが原因です。

 

対策:水を動かして飲ませましょう♪

止水を水と認識しないなら、「水を動かす」ことで解決が出来ます。基本的には「スポイトで少しずつ垂らして飲ませる」「霧吹きを壁面や植物などにして舐めさせる」という方法が手間はかかりますが、手軽で、確実に飲んでいるかの確認もできます。

なお、「エサ皿やタッパーなどの容器に水を溜める」+「エアポンプでぶくぶく空気を送る」ことで、水を動かして爬虫類に認識させる方法もあります。毎日スポイトで飲ませるのが難しい時には、併用することで脱水症状を防ぐことに効果があります。

(なお、爬虫類専用の「噴水のような水飲み容器」も販売されています。飼育している生き物に合わせて、購入するのもありです♪)

 

爬虫類の飲み水について(②大型の個体は「温浴」をさせるのも有りです)

大型の爬虫類は「温浴」という、比較的ぬるいお湯(お湯でもなく、水でもなくという温度。35度程度)で半身浴させることも健康を維持するのに効果的です。フトアゴヒゲトカゲやイグアナなど、種類によって温浴のやり方は違いますので、「生物名+温浴」で情報収集してみて下さい。

温浴をさせることで、脱水症状の防止(水が足りてないときは飲むので)も期待でき、便秘予防や汚れを落とす効果もあります。生体の臭い対策やダニなどを落とすのにも効果的です。

↑のような、防臭&防ダニスプレーもありますが、温浴できるなら温浴させた方がダニ退治には効果的です。

 

まとめ:爬虫類の拒食について

ここまで、爬虫類の拒食対策と押さえておくと効果的なポイントについて紹介してきました。重ね重ねになりますが、爬虫類は基本的に2ヶ月を上限として、水分補給だけで元気に生きていられる生き物ですので、「拒食した⇒原因を探して対処」という流れを取ることが出来ます。

 

今回の相談者様の場合、フトアゴヒゲトカゲにとって「人通りの多さ」と「犬猫の存在」の影響が大きいかと思います。元々の落ち着いた環境に置くのが一番ではありますが、ペットと共に過ごすには色々な事情があるのも現実です。

とはいえ、新しい環境でも(シェルターを入れた前後で)コオロギを食べたとのことですので、(段ボールで目隠しして)今の環境に慣らすことで、今後も元気に過ごしてくれるかなと私は感じました。ひとまずは、「①目隠しをして②栄養強化したコオロギを与える③小松菜などの野菜を手に持って、ゆらして与えてみる④水分補給を忘れない(場合によっては、薄めたオレンジジュースも効果的)」という方法にて、餌食いが改善するかを様子見していただけたらと思います。

 

↓我が家でも、人通りがある場所にイモリを移したら、しばらくは目隠しをして落ち着くようにしてあげています。

ちなみに、この記事を読まれている方はWEB検索で「爬虫類の拒食対策」と探していた方も多いかと思います。爬虫類は種類だけでなく「個体差」もある生き物です。愛情を持って、個体個体の状態を見極めながら、末永く一緒にいられるように工夫することが、飼育者の義務だと私は思います。

基本に立ち返っておさらい(飼育環境の見直し)をしながら、より生き物が過ごしやすい環境を作ってあげることで、餌食いも良くなってくれることと思います。

心配して世話をしている時よりも、「諦めてしばらく放置していたら、逆に個体が落ち着いて」餌を食べるようになった……という話もしばしば聞いたりします。

 

生き物相手に正解はありません。でも、出来る限りの愛情を持って、毎日を一緒に過ごせたらと思っています♪ それでは、また次回の記事でお会いしましょう♪